黒曜石－約束－

長い間　薄曇りだった空はより暗さを増し、
今にも雨が降り出しそうだった。

…少女は暫し、呆然と空を見上げていた。

今度こそ本当に、ぴくりとも動かなくなった彼の傍らで…。

彼を切り裂いた異形のもの。
突然光を放った指輪。
そして、生前の面影を欠片も残す事なく蘇った、彼…。

…どうしてこんな事に…。

色々な事が起こりすぎて、とても頭の中では整理し切れない。
確かにここにあったはずの幸せな時間は、もう跡形もなく砕け散っていた。

静かに横たわる彼に視線を移し、そっとその手を取る。
彼の大きな手には、二人の約束の指輪。

婚約、なんて立派なものではない。
ただずっと、二人で一緒にいようと約束した。それだけだった。

…あの約束は、もう果たす事ができなくなってしまったのか？


不意にまた、涙が溢れた。

もう一度会いたい。優しかった彼に。
包み込むように愛してくれた、あの温かさ…。
何も持っていなかった自分に、全てを与えてくれた。
たった一つ、この世で確かだったもの。

…この約束さえ果たせないのなら、
自分の存在も彼のくれたものも、全てが否定されてしまう。そんな気がした。

会いたい、会いたい、会いたい。


指輪が光る彼の手を強く強く握り締め、少女は……決意した。