宵闇－白燐の花－

…幼い頃からそれは、いろ香の中にあった。

あまりにも自然に存在していたそれが何か特異なものであると気付くのに、
そう時間はかからなかった。

その蠢きは心地良くもあり、疼くようでもあり。
内から溢れ出るような衝動は、幼いいろ香に制御できるものではなかった。

…蠢きを感じる時は、いつも決まっていた。
日の沈みかけた逢魔が刻。
明らかに人ならざる、何かの気配…。
夕焼け空が、いろ香の青く深い紫の瞳と同じ色に染まる時。

溢れるままに身を任せ、噴き出たそれは白く輝く花びらにも似て…
そこにあるべきでない何かを、白く埋め尽くす。

全身を這う疼きと共に、宵闇に映える白い花。

いろ香はそれをただ、ひどく美しく、甘美なものだと感じていた。


…他ならぬ両親の手で、本物の闇の中に放り込まれるまでは。