宵闇－蟲の知らせ－

…大人たちは、すぐに気が付いた。
明らかに異様な、その子供と周りで起こる奇怪な現象。

それが起こる時決まって見せる　恍惚に揺らぐ青紫の瞳は、
狂気さえ感じさせた。

…見た事もない、大きな部屋。

「今日からここがお前の部屋だよ」

小さないろ香にとってはどこまでも広く感じていた屋敷だったが、
それにしてもその中に、今までこんな部屋は存在していただろうか？
薄暗い部屋の中には、うっすらと湿気を感じさせる重い空気が漂っていた。

繕ってはいるものの、どこか不自然な両親の表情。
俄かに抱いた疑問と不吉な予感に、初めていつもとは違う蠢きを感じる。

「いけない…！」

咄嗟にそう思った。
その蠢きにいつもの心地良さはなく、じわりと不安が滲む。

次の瞬間、庭石がふわりと宙を舞った。
そのまま両親目掛けて迫る。

しかし、途中でその軌道は大きく目標を外れ…ごとりと落ちた。



空気が止まる。

何の事はない。いつもと変わらない。
いろ香の中のそれが、主人に悪意を成すものに敵意を向けただけ。

いつもと違ったのは、初めていろ香がそれを制御出来たという事だけ。
敵意の矛先が、自分の肉親であったという事だけ。



……気がつくと、いろ香の瞳からは はらはらと涙がこぼれていた。