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「シルバーレイン」麒麟寺いろ香(b04290)とネフティス・ヘリオポリス(b31266)の覚え書き等々。「シルバーレイン」をご存知ない方は回れ右をお勧めします。



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…病院には、やはり既に幾人かが集まっていた。
見知った顔の親戚に…見覚えのない者は恐らく祖父の部下だろう。

突然姿を現したいろ香に、その場にいた全員が驚いたようだった。
親戚の者は幽閉されているはずのいろ香がここにいる事に、
部下たちは上司に孫がいた事に。
幽閉から十年、それほど いろ香の存在は隠し通されていた。

長い間 世間と触れ合う事無く育った少女は異様とも言える雰囲気を纏い、
その神秘的な香りに周囲は息を呑む。

美しく、どこか儚げで、虚ろ。

浮世離れした少女がその場を横切っていくのを、
誰もがただじっと見つめる事しか出来なかった。

…白く広い病室を入ると、そのベッドの上には祖父が横たわっていた。
無闇に人工的な明るさを放つ病室と、
窓の向こうの深い暗闇が同居するその風景は、どこか現実味がない。

いろ香は静かにドアを閉め、室内を見回す。
祖父自身が人払いをしたのだろう、病室にはいろ香と祖父の二人きりだ。

「…いろ香か」

少し掠れた声で、祖父が言った。
いつもの優しく穏やかな雰囲気が欠けたその声に、
きゅっと胸が締め付けられる。

「……はい、お祖父様」

出来るだけ気持ちを落ち着けて言ったつもりだったが、少しだけ声が震えた。

「…おいで、いろ香。顔を見せておくれ…」

はい、と返事をし、ゆっくりと歩み寄る。
傍らの椅子に腰掛け祖父の顔を覗くと、その表情はすっかり憔悴しているようだった。
いつもは白髪をきちんと整え精悍な印象の祖父が、
今は何だかとてもやつれて見える…。

いろ香の顔を目にすると、祖父はいつものように優しく微笑みかけた。
平静を装っていたいろ香の表情が、思わず切なさに歪む。

「…そんな顔をしないでおくれ。久しぶりに会ったんじゃないか…」

そう言ってゆっくりと手を伸ばし、そっといろ香の頭を撫でる。
…息が詰まるほど胸が締め付けられた。

「…ごめんなさい、お祖父様…。お会いできて、本当に嬉しいです」

何とか微笑み、声を絞り出す。
けれど、その声が震えて震えて…どうにもならない。

「そうだな…最後に会ったのは、いつだったか……。
すっかり大きくなって…ああ、本当に綺麗になったな、いろ香…」

そう言って、何度も何度もその黒髪を撫でる。
そして、挿された花飾りに懐かしそうに目を細め。

「ますます花が、似合うようになった……」

…その言葉が本当に嬉しくて、いろ香は一瞬、言葉に詰まる。
途端に思い出が頭の中を駆け巡り、何を言っていいのかわからなくなった。

「…お祖父様……いかないで……」

糸が切れたように本音が漏れた。
着物が汚れる事も構わず床に膝をつき、すがるように祖父にしがみつく。
溢れるままに涙を零し、小さな子供がいやいやをするように首を振って。
そこにはもう、あの座敷牢の少女の面影はない。

「…泣かないでおくれ、いろ香……。
私がいなくなっても、お前にはあの、白い花がある…」

「え…っ」

思わぬ一言に、いろ香は目を丸くする。
白い花…白燐蟲の事を、祖父は…。

「…今はまだ、持て余しているのだろう…けれど何れ、それはお前の力になる…。
お前を守り、お前の大切なものを守る力にも、なるだろう…」

この力を制御し、さらに生かす事など、考えもしなかった。
そんな事が自分に出来るのだろうか…。
困惑するいろ香の考えを見抜いたかのように、祖父は続ける。

「銀誓館学園…あそこにいれば、きっと何かがわかるはずだ…。
あの学校は、そのためにあるのだから……」

…その時ふと、雲が晴れ、月明かりが射した。
闇に沈んでいた空が、やわらかな月光を帯びる。

祖父は全てを知って…いや、全てが祖父の意思だったのではないか?
だとしたら……。

「済まない…お前のためだったとは言え、
今まで本当に辛い思いをさせてしまったな…。
ろくに会ってやる事も出来ず、閉じ込めたままで…本当に、済まなかった……」

…その言葉に、解せなかった全てが腑に落ちた。
自分は疎まれていたのではなく、守られていたのだ…。
ずっとずっと、祖父の手で。

「いいえ……いいえ、お祖父様、私は……」

しかしその言葉を遮るように、祖父はそっといろ香を抱き寄せ頭を撫でる。

「…私は、もういかなければならないが…
けれど、それでも、お前の側にいるよ………」

優しく穏やかに、そう言って、目を閉じた。



…それきり祖父が再び目を開ける事はなく、
ただ一人、いろ香はその傍でいつまでも泣いていた。

優しく輝く月の下で。
最期の言葉の意味など、知る事もなく。
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■このブログに掲載されているイラスト作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。 イラストの使用権は「はち」に、著作権は各イラストマスターに、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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