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それでもゴーストの群れる場所だけは例外のようで、
静けさがひんやりと冷気を放っている気さえする。
…鳴るはずのないチャイムが鳴り響くその学校に、いろ香はいた。
同行してくれた仲間に礼と別れを告げ、帰還の途に着いた、その時だった。
ばたり。
……不意に背後から、何かが倒れるような音がした。
「………」
いろ香が怪訝な顔で振り向くと、そこには少女が倒れていた。
白い髪を乱し、おもむろに廊下に突っ伏している。
そしてその横には、心配そうに少女を抱き起こそうとする巨漢。
…こちらはどう見ても、普通の人間ではない。
少女と巨人。その組み合わせに、いろ香はふと思い当たった。
…フランケンシュタインと、その花嫁。
そういえば最近学園へ来たと聞いてはいたが、実際に出会うのは初めてだった。
とにかく道端に人が倒れているという凡そ尋常ではなさそうな事態に、
いろ香は少女に駆け寄り声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
フランケンシュタインにそっと抱き起こされた少女は、
その声に僅かだけ顔を上げた。
褐色の肌と、まるで黒曜石のような真っ直ぐな瞳が目に飛び込んでくる。
白い髪とのコントラストが強烈に印象深いその少女は、
日本人ではないようだった。
いろ香をじっと見つめたまま眉間に皺を寄せ、絞り出すように口を開く。
「……ヤマトナデシコ……」
「………??」
…何か明らかにおかしな事を口走っている。
もしや見た目以上に、事態は急を要するのだろうか…。
「あの……どうしましたか…?」
再度の問いに、少女は我に返ったようにはっとした。
そして少しだけ俯き、ぽつりと零す。
「………お腹……減る、したです………」
「…………」
…思わぬ一言に、いろ香は絶句した。
片言の日本語が、その状況に妙に説得力を持たせている気がする。
要するに、空腹で行き倒れているのか……
二十一世紀のご時世である、この日本で。
不意に可笑しさがこみ上げてきて、軽く吹き出してしまった。
失礼だなとは思いつつも、苦笑してしまう。
「わかったわ…良かったら、一緒にご飯、食べませんか…?」
そう言って、少女に手を差し出す。
普段なら自分から人を誘うような事はないいろ香だが、
少女のあまりに無防備な様についそう言ってしまった。
…見も知らぬ異国の少女に、何だか妙な気分だな、と思いながら。
「……でも、私……お金ない、ですので……」
少女は差し伸べられた手に一瞬驚いたような表情を見せたが、
そう言ってより深く眉間に皺を刻む。
しかし何だかその様が、かえって彼女を放ってはおけない気持ちにさせる。
「大丈夫よ、私がご馳走するわ。……立てる?」
いろ香がそう微笑むと、
フランケンシュタインが少女を抱いたまま静かに立ち上がった。
礼を言うように、いろ香に軽く頭を下げる。
「あら…紳士なのね」
彼の大きな腕の中にすっぽりと収まった少女は、
深々と刻まれいていた眉間の皺を少し和らげ、安心したように彼に身を寄せた。
あまりに自然なその様に、いろ香は思わず微笑んだ。
どうやらこの二人は、相当に仲睦まじいようだ。
「…そうね、さすがに外には一緒に行けないけれど…
途中までは、彼がいるから大丈夫ね…」
「………セト、です」
浸るように彼に身を預けていた少女が、ぽつりと言った。
心なしかほんのりと頬を染めて。
恐らくそれが、彼の名前なのだろう。
「…私はいろ香よ…。よろしくね、セトさん」
そうして彼に微笑みかけ、いろ香と二人はその場を後にした。
…肝心の少女の名前を聞いていない事に気付いたのは、
もう少し後の事だった。
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